鳥取地方裁判所 昭和58年(わ)126号 判決 1985年11月15日
本籍
鳥取県気高郡気高町大字酒津四四七番地二
住居
右同所
運送業
中江時雄
大正五年一月二三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官稲葉一生出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一〇〇〇万円に処する。
被告人において、右罰金を完納しないときは、金二万円を一日に換算した期間労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、鳥取市賀露町七隅田一〇八番地の二の事業所において、鳥取小型運送の名称で運送業を営んでいるものであるが、所得税免れようと企て、
第一 昭和五五年分の実際の所得金額は三七三七万五五八二円で、これに対する所得税額は一五八三万九〇〇〇円であるにもかかわらず、運賃収入の一部を除外し、仮空の経費を計上するなどして仮名の普通預金又は定期預金にするなどの不正な行為により所得の一部を秘匿した上、同五六年三月一六日、鳥取市東町二丁目三〇八番地所在の鳥取税務署において、同税務署長に対し右五五年の所得金額は四六二万一九四〇円の損失でこれに対する所得税額は零円であり、既に源泉徴収された所得税額一三万六九七〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税損失確定申告をし、もって不正の行為により、一五八三万九〇〇〇円所得税を免れるとともに、同五六年三月二〇日同署長から右源泉徴収所得税額相当の一三万六九七〇円の還付を受けた
第二 昭和五六年分の実際の所得金額は四一三八万八五一七円で、これに対する所得税額は一七六三万五九〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により所得の一部を秘匿した上、同五七年三月一五日、前記税務署において同税務署長に対し、右五六年分の所得金額は一一八万五五八六円の損失でこれに対する所得税額は零円であり、既に源泉徴収された所得税額七万七四三九円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税損失確定申告をし、もって不正の行為により、一七六三万五九〇〇円の所得税を免れるとともに、同五七年三月二六日同署長から右源泉徴収所得税額相当の七万七四三九円の還付を受けた
第三 昭和五七年分の実際の所得金額は二九〇三万五二八四円で、これに対する所得税額は九七八万七八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により所得の一部を秘匿した上、同五八年三月一五日、前記税務署において同税務署長に対し、右五七年分の所得金額及びこれに対する所得税額とも零円であり、既に源泉徴収された所得税額六万二八六八円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税損失確定申告をし、もって不正の行為により、九七八万七八〇〇円の所得税を免れるとともに、同五八年三月三一日同署長から右源泉徴収所得税額相当の六万二八六八円の還付を受けた
ものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 中江恵子の検察官に対する各供述調書
一 中江恵子(五通)、田中恒夫、藤崎勝司(五通)、小林栄一の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の
1 脱税額計算書説明資料
2 収入金額調査書
3 経費調査書
4 賃借料調査書
5 消耗品費調査書
6 建物及び減価償却費調査書
7 青色申告の取消に伴う是否認金額調査書
8 損益通算の否認調査書
9 純損失の繰越控除額否認調査書
10 利子所得未払源泉所得税調査書
11 譲渡所得調査書
12 所得控除額調査書
13 現金調査書
14 預金調査書
15 受取手形調査書
16 売掛金調査書
17 貸付金調査書
18 事業主貸借勘定調査書
19 未払金調査書
20 短期借入金調査書
一 証明書と題する書面
1 佐治村農業共同組合長理事岡本末廣作成(二通)
2 鳥取信用金庫鳥取西支店支店長影井幸実作成(二通)
3 小林工業株式会社代表取締役小林栄一作成
4 大西ゴム工業所大西温恵作成
5 湖山石油株式会社代表取締役溝口征雄作成
6 西日本環境設備株式会社代表取締役荒川清作成
7 船越石油店代表者船越礼次郎作成
8 鳥取地区生コンクリート共同組合理事長浜崎芳宏作成
9 有限会社鯉口穣作成
10 やまこう建設株式会社代表取締役社長松岡一行作成
11 有限会社岸本塗装店岸本熊太郎作成
12 やまこう建設株式会社生コン工場工場長岩谷四郎作成
13 清水建設株式会社広島支店長新居健三作成
一 大蔵事務官作成の調査事項報告書(五通)
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五五年分)
一 押収してある昭和五五年分所得税損失申告書(昭和五九年押第一八号の1)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五六年分)
一 押収してある昭和五六年分所得税損失申告書(同押号の2)
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五七年分)
一 押収してある昭和五七年分所得税損失申告書(同押号の3)
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条に、裁判時においては所得税法二三八条に該当するが、刑法六条により軽い行為時法によって処断することとし、所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することとし、判示第二、第三の各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、所定刑中それぞれ懲役刑と罰金刑とを併科することとし、判示各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重くかつ犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一〇〇〇万円に処し、同法一八条により被告人において右罰金を完納しないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、懲役刑については同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その執行を猶予することとする。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 田村秀作)